Kenji Tanaka Seminar's Web site (田中ゼミ) : Meteotsunami

気象要因によって発生する潮位副振動(気象津波)に関する研究

気象津波 (Meteotsunami, Meteorological Tsunami) とは

Abiki.jpg鹿児島県甑島で発生した潮位副振動(2009/2/25) 鹿児島県薩摩川内市役所提供潮位副振動とは、気象要因や湾の形状などの様々な外力要因によって、天文潮汐や波浪とは異なる周期の海面の変動の総称です。潮位副振動の中でも、海上での突発的な気圧の変動や風の変化によって発生し、地震による津波と同様のメカニズムで沿岸に到達し、低地の浸水や堤防の損壊や養殖いけすの破損などの被害をもたらすものがあります。国際的には、これを meteotsunami (または Meteorologial Tsunami) (気象津波)と呼んでおり、国内外で研究が進められてきています。

破壊的な被害をもたらす気象津波は、地域によって様々な名称で呼ばれています。九州地方では、養殖いけすの網を引き裂く程強い流れを伴うことから、あびき(abiki)と呼ばれています。





関連論文
Tanaka, K. (2010) Atmospheric pressure-wave around a cold front resulted in a meteotsunami in the East China Sea in February 2009, Natural Hazards and Earth System Sciences, vol. 10, issue 12, pp. 2599-2610.

2009年2月25日に発生した気象津波(潮位副振動・あびき)の気象要因

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あびきの被害

  2009年2月24日~26日にかけて鹿児島県甑島をはじめとする九州西部の沿岸域であびきが発生し、各地の験潮所で最大振幅100cmを超える大きな振動を観測しました。鹿児島県上甑島の浦内湾では、小型漁船の転覆や堤防底部の損壊・小島漁港の浸水などの被害が発生し、痕跡に基づく推定最大振幅が290cm(長崎海洋気象台などの調査による)を記録しました。この記録は、1979年に長崎で観測された潮位副振動(最大振幅279cm)とよりも大きい値です。
 当時のあびきによる被害は、甑島だけではなく、熊本県牛深市で道路冠水の被害が報告されています。

東シナ海上の停滞場
済州島付近で発生した地上低気圧と寒冷前線

 当時の地上天気図によると、2009年2月22日から24日にかけて、日本上空を通過する低気圧から延びる寒冷前線の西端の停滞前線がかかっており、東シナ海上では前線の形成による収束場が維持されている状態であったと考えられます。
 2月24日の夕方には済州島付近に新たな低気圧が現れ、低気圧の西側に寒冷前線を形成しながら東へと進みました。東シナ海上の停滞場から寒冷前線の進行の過程の中で、海面気圧の微変動(微小なゆらぎ)が生じたことが、気象庁や甑島の気圧観測より示されています。

中国大陸から東シナ海に延びる上空の乾燥空気

 海面気圧の微変動が発生する要因の一つとして、局地的な上昇・下降気流の発生が考えられますが、上下動の話を行う前に、当時の上空の大気の状態について見ておきましょう。
 まず、気象衛星の画像のうち、水蒸気画像を見ていきます。水蒸気北緯30度付近の東シナ海上空はやや薄暗い色をしているように見えます。この薄暗い領域は、上空に乾いた空気があることを示しています。赤外画像(日常の天気予報で見られる雲の画像)を見ると、同じ場所には雲の列が現れています。
 気象庁提供の数値予報データを使って、上空の天気図を作成すると、東シナ海上で発生した低気圧の湿った空気の周りに乾いた空気が南北両方から入り込んでいる様子が見られます。日本のはるか南の太平洋上には、高気圧があります。チベット高原の南を迂回した上空の大気が、高気圧に沿って北向きに蛇行し、その大気の流れに沿って乾いた空気が日本に向かって進んでいました。

3km以下の下層の安定層と3km~5km付近の不安定層

中国大陸内部で発生した山岳波による気流の上昇が上空の不安定層に達して増幅 (wave-CISK)

大気波動の下層での伝播 (wave duct)

東シナ海以外にも同類の現象によって、気象津波が発生